鷹が見つけた湯、守護代の娘が通った湯
松之山温泉は新潟県十日町市、長野県境に近い山あいにある。開湯伝説では約700年前の南北朝時代、鷹が傷を癒していたのを見つけたのが始まりとされ、源泉の一つは『鷹の湯』の名を持つ。上杉謙信の隠し湯とも言われる。記録は1503年の文書に始まり、守護代の娘が8月の結婚を『松山へ湯治に行くので11月に延期する』とある。江戸時代の『諸国温泉功能鑑』では越後の温泉の筆頭に置かれた。いまは十数軒の宿と共同浴場、足湯、飲食店が連なる小さな温泉街で、100年以上続く旅館や登録有形文化財の宿もある。[5]
海の水が地中で温まる
松之山の湯はナトリウム・カルシウム-塩化物泉。源泉温度は88.7℃、溶存物質は16,257mg/kgで温泉法の基準の約16倍、体液より濃い高張性の湯だ。公式サイトは約1,200万年前の海水が地中で温められた化石海水だと説明し、新潟大学の研究者は地圧で湧き出す『ジオプレッシャー型温泉』としている。塩分が強く、太平洋戦争中には塩の採取も行われた。消毒作用のあるメタホウ酸は287.4mg/kgで、ホウ酸含有量は日本一とされる。草津・有馬とともに『日本三大薬湯』と呼ばれてきたのは、この濃さと熱さのためだろう。2011年の長野県北部地震で湯量が減り、新たな掘削も行っている。[1][5]
鷹の湯と湯の山
日帰りで入るなら、温泉街の真ん中にある松之山温泉センター『鷹の湯』。男女それぞれに内風呂と露天があり、大人600円(17時以降500円)、小学生300円、11:00〜20:00(最終受付19:30)、木曜休。入館券は駅の改札のような機械で管理され、休憩スペースもある。十日町市観光協会は、冬は露天から雪景色を見られると勧める。温泉街から少し離れた『ナステビュウ湯の山』は10:00〜21:00、火曜休、平日800円・土日祝850円で、4〜11月末の土日祝は朝5時から『ご来光風呂』が開く。温泉街の足湯には『危険86度』の表示があり、源泉の熱さを目で確かめられる。[2][3]
雪の中の湯治場
松之山は積雪が4mを超えることもある国内有数の豪雪地帯で、冬の暮らしと温泉は切り離せない。毎年1月15日、温泉街に隣接する薬師堂では前年に結婚した婿を雪の斜面へ投げる『婿投げ』と、賽の神の灰と雪を混ぜて顔に塗り合う『すみ塗り』が行われる。温泉熱は暮らしにも使われ、2020年には98℃の源泉と余る湯量で出力210kWのバイナリー発電所が完成し、温泉熱の消雪パイプを含む景観づくりはグッドデザイン賞を受けた。周辺にはブナの『美人林』や棚田、大地の芸術祭の作品が点在する。まつだい駅からバス約30分、冬は越後湯沢からの予約制バスもある。[5][4]