発刊にあたって
十年目の港から
この記念誌を、まず、十年間ともに働いてくれた仲間と、その家族に贈ります。
私たちの会社は、二〇一六年の春、三人で始まりました。借りたのは、海沿いの古い倉庫がひとつ。機械は中古が一台。最初の月の売上は、三人の給料に遠く届きませんでした。それから十年。仲間は二十八人になり、機械は九台になり、あの倉庫は手狭になって、二度の引っ越しをしました。
この十年は、順風の航海ではありませんでした。五年目には、売上の四割を占めていた取引先を失いました。あのとき会社を支えたのは、立派な戦略ではなく、目の前のひとつひとつの仕事を丁寧に納め続けた現場の力です。この記念誌の題を「航海図」としたのは、私たちの十年が、まっすぐな一本道ではなく、風を読み、進路を変えながら進んだ航海だったからです。
この本には、立派なことばかりを載せていません。創業のころの手書きの請求書も、うまくいかなかった製品の話も、そのまま載せました。次の十年を進む人たちにとって、成功の記録より、乗り越えた記録のほうが役に立つと考えたからです。
制作にあたっては、全社員二十八人が一言ずつ言葉を寄せてくれました。十年分の社内報と写真を掘り起こし、創業メンバーの話を聞き書きしました。ページをめくると、あなたの知らない誰かの十年が、きっとどこかに書かれています。
十年目の港に、いったん錨を下ろします。けれど、これは記念碑ではなく、海図です。次の十年も、同じ仲間と、新しい仲間と、いい航海を続けていきましょう。
二〇二六年春 代表取締役