これは、町の真ん中を流れる一本の川と、その川べりで暮らしてきた人たちの記録集です。
きっかけは、公民館の物置から出てきた一箱の古写真でした。日付も説明もない写真が二百四十枚。橋の上の人力車、川原いっぱいの洗濯物、浴衣姿で舟に乗る子どもたち。整理を手伝いながら、わたしたちは同じことを思いました。この写真に写っていることを説明できる人が、町にあと何人いるだろう。
それで、聞き書きを始めました。語り手は八十代を中心に八人。録音は合わせて約十四時間になりました。渡し舟があったころの話。川で洗い物をしながら交わされた立ち話。投網の打ち方。二度の大水の夜のこと。話は何度も脱線しましたが、脱線の中にこそ、暮らしの手ざわりが残っていました。
この本は、三つの材料でできています。八人の語り(聞き書き)、古写真九十枚、そして行事の記録です。語りはできるだけ話し言葉のまま残し、意味が通りにくいところにだけ注を付けました。写真は、写っている方やご家族に確認できたものを選んでいます。
川は、上水道が来るまで、台所であり、風呂であり、洗濯場であり、子どもの遊び場であり、ときどき恐ろしい災いでした。つまり、暮らしの真ん中にありました。いまの静かな川面からは想像しにくいその日々を、語られた言葉のまま次の世代に手渡すこと。それがこの記録集の役目です。
手に取ってくださったあなたが、帰り道に橋の上で少し立ち止まって、川を見下ろしてくれたら。編んだ者として、それ以上の喜びはありません。