序章
日本の読者へ — 庭の入口で
この本は、プラズマという物質の案内書です。難しい本ではありません。数式は、最後まで出てきません。
プラズマと聞くと、遠い実験室の話に聞こえるかもしれません。でも、あなたは今日すでにプラズマを見ています。台所のコンロの炎の縁、街の看板のネオン、夕立の稲妻。あれはみんな、プラズマの仲間です。物質は氷から水、水から湯気へと姿を変えますが、その先にもうひとつ状態があります。気体をさらに熱していくと、原子が電子を手放し、光を放つ「第四の状態」に変わる。それがプラズマです。
原題は The Plasma Garden、「プラズマの庭」といいます。妙な題だと思われるかもしれません。私は三十年あまり、プラズマを閉じ込める研究をしてきましたが、この仕事はいつも庭の手入れに似ていると感じてきました。プラズマは、放っておくと形を崩して逃げ出します。囲いを作り、様子を見て、少しずつ手を入れる。思いどおりにはならないけれど、手をかけた分だけ応えてくれる。庭とは、そういうものだと思います。
この日本語版のために、序章は最初から書き直しました。原著の序章は、私の住む町で起きた停電の夜の話から始まるのですが、日本の読者には少し遠い話だからです。巻末には、翻訳にあたって迷った言葉を中心に、小さな用語辞典を付けました。本文で分からない言葉に出会ったら、いつでもそこへ寄り道してください。
準備は、これで十分です。それでは、庭の入口からご案内します。