はじめに
会社員のまま、商いを始める
会社は、辞めていません。いまも平日は会社員として働き、週末だけ小さな商いを続けています。この本は、その三年間の記録です。
扱っているのはコーヒー豆です。土曜の朝に自宅の一角で焙煎し、日曜に近所の朝市と、月に二度の間借りの店で売る。それだけの、本当に小さな商いです。従業員はいません。店舗も持っていません。開業にかかったお金は二十八万円。三年目の売上は年間でおよそ百十万円、手元に残るのは月に三万円ほどです。
先に言っておきたいのは、これは成功者の本ではない、ということです。会社を辞めて年商一億、という話はここには出てきません。その代わり、月三万円の商いを三年続けると何が起きるのかを、数字も失敗も隠さずに書きました。最初の仕入れで在庫を抱えた話。値づけを間違えて、売るほど赤字になった月の話。それでも辞めなかった理由。
書こうと思ったきっかけは、同僚の一言でした。「自分も何か始めたいけれど、何から手をつければいいか分からない」。三年前の私と、まったく同じ言葉だったからです。あのとき、こういう小さくて正直な記録が一冊あれば、私はもっと早く、もっと気楽に始められたと思います。
だからこの本は、これから始める人のために書きました。大きな決断はいりません。会社を辞める必要も、借金をする必要もありません。必要なのは、週末の数時間と、小さく始める勇気だけです。
三年分のノートとレシートを机に広げて、この本を作りました。どこにでもある話です。でも、どこにでもある話だからこそ、あなたの役に立つと思っています。