万葉の湯
湯河原温泉は神奈川県の西端、相模湾に注ぐ千歳川と藤木川の谷に湧く。万葉集に「足柄の土肥の河内に出ずる湯の世にもたよらに子ろが言はなくに」と詠まれ、その歌碑が温泉街の中心、万葉公園に立つ。開湯伝説は役行者、行基、弘法大師、さらにタヌキによる発見説まで複数ある。湯は数十万年前に活動を終えた湯河原火山の浸食カルデラの中に湧き、泉質は単純泉・弱食塩泉・石膏泉など、源泉温度は30〜88℃。隣の熱海に大型ホテルが林立するのに対し、湯河原は日本旅館が主体で古い温泉街の風情を残す。[5]
文人たちの療養地
明治以降、湯河原は文豪に愛された。国木田独歩は晩年に『湯河原より』『湯河原ゆき』を書き、夏目漱石は絶筆となった『明暗』をここで執筆した。島崎藤村、芥川龍之介、谷崎潤一郎も訪れ、芥川は『トロツコ』などの舞台にした。昭和の挿絵画家たちが集った写真も残る。万葉公園の大型足湯は独歩にちなんで『独歩の湯』と名付けられていたが閉館し、その跡地に2021年以降『湯河原惣湯 Books and Retreat』が開かれた。本と湯で過ごす施設として、文人の町の記憶を別の形で引き継いでいる。[5][4]
町の湯と、予約して入る湯
日帰りで湯河原の湯に入るなら、まず万葉公園入口の町営『こごめの湯』。男女それぞれに露天と大浴場があり、無料休憩室や食堂からは温泉場の町並みが見える。9:00〜21:00(最終受付20:30)、月曜休、大人1,100円・小中学生600円、19時以降は大人600円に下がる。泉質は弱食塩泉。駅から奥湯河原行きバスで約9分、「公園入口」下車徒歩3分。一方、公園の奥の『惣湯テラス』は事前予約制で中学生以上、食事なし3,500円で3時間滞在する。入口の玄関テラスには観光案内とカフェ、誰でも使える小さな足湯がある。[3][4][6]
駅から歩いて登る温泉街
湯河原駅は東海道線で横浜から約60分、東京から約1時間半。駅から県道75号を上ると15分で温泉街の入口、しだいに坂が急になり、『温泉場』と呼ばれる中心街まで約30分。バスなら約10分、タクシーで5〜8分。温泉街は千歳川・藤木川の谷に沿って旅館が並び、見番では毎週土日に寄席・温泉落語、12月には歌舞伎舞踊公演、10月には温泉場のまち歩きイベント『湯探歩』がある。春の湯かけまつりでは温泉を掛け合う。源泉は山側にあり、東海道新幹線で分断された海側の宿へは専用のパイプラインで湯を届けている。[1][5]