ABOUT THIS ATLAS
海洋アトラスという考え方。
これは船舶管理システムでも、行政ポータルでもありません。海で働く人の「読む」という技術を、誰でも見られるかたちに写し取る試みです。
01 — WHY / なぜつくるのか
気象庁の潮汐、海上保安庁の入航予定、灯台が測る風。 どれも公開されているのに、別々の場所に、別々の形式で置かれています。 船員はそれらを頭の中でつなぎ合わせて海を読む。その「つなぎ合わせ」自体を画面にしたのが、この場所です。
目指すのはひとつ——シケた海域を実際に走っている船の速度を見て、自船の出せる速度を推測する。 この現場の知恵に、潮と入航予定の文脈を添える。機能を増やすことより、この一点を正確に写すことを優先します。
計器ではなく、地図。
警報ではなく、判断の材料。
Not an instrument, but an atlas. Not alarms, but context.
02 — WHERE WE ARE / 正直な現在地
いま繋がっているのは、公的機関が公開している実データだけです。推測した数字は一つも載せていません。
できている
海況・潮・入航予定
できていない
AIS船速レイヤー(核心部)
船の位置・速力・減速率。無料APIキーか自前受信機が要ります。 それらしい数字で埋めれば画面は完成して見えますが、船乗りが見た瞬間に嘘だと分かる。 だから空欄にしてあります。
更新は手動です。python tools/fetch_data.py を人が実行した時だけデータが新しくなります。
自動更新にするには、定期実行の仕組みと、提供元への負荷や利用規約の再確認が必要です。そこはまだ作り込んでいません。
03 — ROADMAP / 育て方
東京湾版。気象庁の潮位表、海上保安庁の入航予定と気象海象。すべて出典・時刻つき。更新は手動。
無料キー(aisstream.io)で東京湾に絞って受信。船の位置と実速力(SOG)が出るようになり、入航予定との船名照合も動いた。ただし無料網の受信局は横浜周辺に偏っており、湾口は届いていない。
海上交通センターは全国6海域で潮流を実測公開していた。来島6.2kt・関門4.0kt・明石2.9kt——東京湾の3倍速い。 そして関門海峡だけ、海保が転流時刻を予測していないことが分かった。現役の船員の「関門だけ不規則」という指摘の裏付け。 STRAITS
この先は、コードではなくお金か時間が要る。
・シケる外洋(鹿島沖・房総沖)を見る → 衛星AIS。月80〜99ユーロ(約1.3〜1.6万円)
・瀬戸内で船を見る → 明石か今治にAIS受信機。数万円・買い切り・月額ゼロ
・東京湾の湾口を安定させる → 三浦半島にAIS受信機。同上
・減速率を出す → 履歴の蓄積。仕組みは実装済み、あとは時間
瀬戸内は潮が速く、入航予定も72時間先まで公開されていて、東京湾より情報が多い。 ところがAISがほぼ映らない(3分受信で5隻。東京湾は60〜80隻)。明石海峡・備讃瀬戸・関門海峡は0隻だった。 船が見えないと「潮を引いた船速」が作れないので、いまは東京湾版のほうが中身が濃い。受信機を置けば逆転する。
提供元の負荷と規約を確認したうえで定期取得にする。気象庁の潮位観測情報(実測)も繋ぎ、予測値と併記する。
04 — FROM THE BRIDGE / 現場に聞いたこと
現役の船員に見てもらい、返ってきた言葉です。ここに書いてあることが、そのままこのサイトの設計になりました。
船が遅いときは、
1 潮の流れ 2 風 3 エンジンの回転 4 船体の汚れ
のあたりを疑うっすかね?
3と4は、外からは取得する手段がありません。船の中のデータだからです。 だからこのサイトは「原因を当てる道具」ではなく、「潮と風を消しこむ道具」にしました。 1と2を消して、それでも遅ければ船の側——という消去法なら、公開データだけで成立します。
対水速力を見る機会って、
船のスピードが出てない時に、潮が効いてるか見るくらいしか
見ないと思います
目玉のつもりで作ったTIDAL SPEEDは、 毎日見るものではないと言われました。使うのは「遅いな」と思った時だけ。 だからトップの主役から外し、「遅いのは、潮のせいか」という位置づけに直しました。
海外の頻繁に日本に来ない船舶が瀬戸内を通ったりする時は、
潮がどれだけ流れているかを、潮汐表とか見ずに分かると
楽になるのかもしれないです
ターゲットも海域も、ここで変わりました。日本のベテランは潮を頭に入れています。 入っていないのは日本に不慣れな外国船。潮汐表は分厚くて読むのが面倒。 だからSTRAITSを瀬戸内主役・英語併記にして、 通る向きを見るだけで順潮か逆潮か分かる形にしました。
関門海峡の潮流だけは全然違う日がちょくちょくある
東流れの最強流から弱くなって転流(0ノット)にならず
再び東流れの最強流まで上がったり不規則な動きをする
調べたら、海上保安庁は全国6海域で潮流を公開していて、関門海峡だけ「次の転流時刻」の列がありませんでした。 海保も予測して出していない。そして第七管区のページに理由が書いてありました—— 「小潮期には1日に1回の西流と10数時間も続く1回の東流という流況が2〜3日間にわたることがあります」。 船の上からの観察が、公式の注記と一致しました。 STRAITS で見る
机の上では、思いつかなかった。
None of this came from the desk.
05 — PRINCIPLES / 決めごと
推測を、事実に混ぜない
実測・予測・予定・計算を区別し、すべての数字に出典と時刻を表示する。分からないことは「分からない」と書く。それらしい数字で画面を埋めない。
指示をしない
航行の可否、針路や速力の指示は表示しない。表示するのは事実の整理だけ。判断は公式情報と船長の責任において。
データ元に敬意を払う
出典を必ず示し、取得は低頻度に抑え、再配布はしない。公開してくれている機関があってこそ成り立つ場所だから。