分類のしくみ
療養泉は、まず「溶けている物質の総量が1kgあたり1g未満かどうか」で分かれます。1g未満で25℃以上なら**単純温泉**。1g以上なら、いちばん多い陰イオンによって**塩化物泉・炭酸水素塩泉・硫酸塩泉**に分かれます。
これとは別に、特定の成分を一定量以上含むと**二酸化炭素泉・含鉄泉・酸性泉・含よう素泉・硫黄泉・放射能泉**の名前が付きます。1つの湯が複数の条件を満たすこともあり、「含硫黄-ナトリウム-塩化物泉」のように長い正式名になります。
2014年の改訂で含よう素泉が加わり、現在の10種類になりました。それ以前の資料にある「含銅-鉄泉」「含アルミニウム泉」は今は使いません。
やわらかい湯: 単純温泉・炭酸水素塩泉
**単純温泉**は日本でいちばん多い泉質です。成分が薄いので刺激が少なく、子どもや高齢の人にも向くとされます。pH8.5以上は「アルカリ性単純温泉」で、肌の古い角質をやわらげるため「つるつる」と感じやすい。下呂温泉、鹿教湯温泉、道後温泉など。
**炭酸水素塩泉**は重曹(炭酸水素ナトリウム)などを含み、皮膚の脂を落としてさっぱりします。「美人の湯」と呼ばれる温泉の多くはこれです。嬉野温泉、龍神温泉、白骨温泉。白骨では炭酸カルシウムが析出して湯が白くなります。
Asturio Cantabrio · CC BY-SA 4.0
Gero Onsen
岐阜県 · 日本を知る100温泉 No.53
単純
pH9を超えるアルカリの湯が55℃で町じゅうの宿に配られ、駅から歩ける9つの足湯で、入らずとも「つるつる」が分かる。
STA3816 · CC BY-SA 4.0
Ureshino Onsen
佐賀県 · 日本を知る100温泉 No.93
炭酸水素塩塩化物
とろりとした重曹泉で知られる「日本三大美肌の湯」。その温泉水で豆腐を煮ると、煮汁が白く濁ってとろける。
Soica2001 (talk) · Public domain
Shirahone Onsen
長野県 · 日本を知る100温泉 No.50
硫黄炭酸水素塩
湧いたときは透明。空気に触れて白くなる。白骨の白濁は硫黄だけでなく、炭酸カルシウムが固まって「噴湯丘」まで作る湯の性質から来ている。
温まる湯: 塩化物泉・硫酸塩泉
**塩化物泉**は塩分が主成分。塩が肌に薄い膜を作って熱を逃がさないので「熱の湯」と呼ばれ、湯冷めしにくい。海に近い温泉(熱海、和倉、白浜)や、太古の海水が温められた温泉(松之山)に多い。なめるとしょっぱい。
**硫酸塩泉**は石膏(カルシウム)や芒硝(ナトリウム)などを含みます。古くから「傷の湯」「中風の湯」と呼ばれ、湯あたりは落ち着いた印象。法師温泉、四万温泉、山中温泉など。
663highland · CC BY-SA 4.0
Atami Onsen
静岡県 · 日本を知る100温泉 No.56
塩化物硫酸塩
500を超える源泉から毎分約2万リットル、平均63℃。駅前の足湯から坂の上の間歇泉まで、町そのものが湯の上に建っている。
KQuhen · CC BY-SA 4.0
Matsunoyama Onsen
新潟県 · 日本を知る100温泉 No.37
塩化物
1,200万年前の海水が地中で温められ、88℃の塩辛い湯になって雪国の谷に噴き出す。
C.K. Tse · CC BY-SA 2.0
Hōshi Onsen
群馬県 · 日本を知る100温泉 No.27
硫酸塩
1895年のアーチ窓の浴舎で、床の玉石のすき間から湯が湧く。一軒宿にしかない、混浴の作法が生きた湯。
個性の強い湯: 硫黄泉・酸性泉・含鉄泉
**硫黄泉**はゆで卵のような匂いと白濁が特徴で、「温泉らしさ」の代表。硫化水素型と硫黄型があり、硫化水素型は匂いが強く、白濁しやすい。万座、高湯、乳頭温泉郷の鶴の湯、別府の明礬。金属を黒くするので、アクセサリーは外して入ります。
**酸性泉**は水素イオンが多く、肌にぴりっときます。殺菌力が強く、草津(pH2前後)、玉川(pH1.2・日本一の強酸性)、蔵王、川湯(北海道)が代表。長湯や、入った後に真水で流さず放置するのは避けます。
**含鉄泉**は鉄分を含み、湧いたときは透明でも空気に触れると酸化して茶褐色〜赤褐色になります。有馬の金泉、伊香保の黄金の湯、不老ふ死温泉。タオルが茶色く染まります。
SpringField1967 · CC BY-SA 3.0
Manza Onsen
群馬県 · 日本を知る100温泉 No.29
硫黄酸性
標高1,800m、日量540万リットルの硫黄泉。空気の薄い山の上で、雪の中の白い湯に入る。
Aspere · CC0
Kusatsu Onsen
群馬県 · 日本を知る100温泉 No.25
酸性硫黄硫酸塩塩化物
毎分3万2千リットル、pH2.1の酸の湯が町の真ん中から湧き出し、木の樋を流れて冷めていく。
663highland · CC BY-SA 4.0
Arima Onsen
兵庫県 · 日本を知る100温泉 No.62
含鉄塩化物二酸化炭素放射能(ラドン)
海水より濃い塩と鉄の『金泉』と、炭酸とラドンの『銀泉』。まったく違う2つの湯が、徒歩5分の距離で湧く。
少ない湯: 二酸化炭素泉・含よう素泉・放射能泉
**二酸化炭素泉**は炭酸ガスが溶けた「泡の湯」。体に細かな泡が付き、ぬるくても血行がよくなって温まるとされます。高温だとガスが抜けてしまうため、ぬる湯が多い。長湯温泉(大分)、有馬の銀泉、山形の肘折温泉郷の黄金温泉。日本では数が少ない泉質です。
**含よう素泉**は2014年に加わった新しい分類。海水起源の温泉に多く、湯が黄色〜褐色を帯びることがあります。千葉・東京の温泉に多い。
**放射能泉**はラドンを一定量以上含む湯。三朝、増富、有馬、村杉。ラドンは気体なので、湯船だけでなく浴室の空気から吸い込む量も多く、三朝では「ラドン熱気浴」もあります。詳しくは「ラドン温泉とは何か」の記事で。
NY066 · Public domain
Nagayu Onsen
大分県 · 日本を知る100温泉 No.89
炭酸水素塩二酸化炭素
32℃の湯に浸かると数分で全身が銀色の泡に覆われる。遊離二酸化炭素1,380mg、日本屈指の炭酸泉。
三塚 · CC BY-SA 4.0
Misasa Onsen
鳥取県 · 日本を知る100温泉 No.74
放射能(ラドン)塩化物単純
浸かって、飲んで、吸う。ラドンを三つの入口から体に入れる湯治場は、川原の露天も飲泉場も無料で町に開いている。
増富温泉
写真未掲載
Masutomi Onsen
山梨県 · 日本を知る100温泉 No.44
放射能(ラドン)
30℃前後のぬるい湯に黙って30分。日本で最も濃いラドン泉のひとつを、温めずそのまま浴びる湯治場。
泉質名と「効能」の関係
温泉分析書には、泉質ごとに「適応症」(浴用・飲用)が書かれています。これは環境省の指針に基づく公的な表示で、治療の保証ではありません。このアトラスでは適応症を「分析書の掲示」として引用し、施設の説明や体験者の感想とは分けて書いています。「〇〇に効く」と断定する書き方はしません。
泉質は体に合うかどうかの目安にはなります。刺激の少ない湯から試したい人は単純温泉や炭酸水素塩泉、強い個性を体験したい人は酸性泉や硫黄泉、という選び方です。
用語
- 溶存物質総量
- 湯1kgに溶けている成分(ガスを除く)の合計。1g以上で塩類泉。
- 陰イオン
- 塩化物・炭酸水素・硫酸などマイナスの電気を持つ成分。塩類泉の名前を決める。
- 適応症
- その泉質で期待される効果として公的指針が掲げる症状。禁忌症(避けるべき状態)と対で掲示される。
関連する温泉
Calistemon · CC BY-SA 4.0
Noboribetsu Onsen
北海道 · 日本を知る100温泉 No.1
硫黄塩化物硫酸塩含鉄酸性炭酸水素塩放射能(ラドン)
地獄谷から1日1万トン、9種類の泉質がひとつの谷に湧く。
Zhaitengli · CC BY 4.0
Naruko Onsen
宮城県 · 日本を知る100温泉 No.18
硫黄硫酸塩炭酸水素塩塩化物単純含鉄酸性
療養泉10種のうち7種がひとつの温泉郷に。駅前の共同浴場「滝の湯」は300円、下駄を鳴らして湯めぐりへ。
三塚 · CC BY-SA 4.0
Misasa Onsen
鳥取県 · 日本を知る100温泉 No.74
放射能(ラドン)塩化物単純
浸かって、飲んで、吸う。ラドンを三つの入口から体に入れる湯治場は、川原の露天も飲泉場も無料で町に開いている。
NY066 · Public domain
Nagayu Onsen
大分県 · 日本を知る100温泉 No.89
炭酸水素塩二酸化炭素
32℃の湯に浸かると数分で全身が銀色の泡に覆われる。遊離二酸化炭素1,380mg、日本屈指の炭酸泉。